Re-Mix13 [Nagasaki]
更新日:9月26日
Category: Mansion Renovation
Architect: Murayama
Date: 2025
Location: Nagasaki city, NAGASAKI
玄関の扉を開ければ、ふわりと漂う香りの気配。
パリのアパルトマンをお手本にした空間は
細部にいたるまで妥協なく、潔いほどに好みが貫かれています。
わくわくする気持ちに押されるように物件探しをはじめ、
自分なりのファンタジーを練り上げる濃密な時間を楽しみながら。
その結晶が物語となって、語りかけてくるような空間です。
あの日のアパルトマンみたいに。
長崎らしい急こう配の坂の途中にある、築35年を超えるマンション。「この部屋はパリのアパルトマンという設定。洗練されている反面、どこかヌケがあっておおらか。生活感はそっとしまい、愛でたいものをさり気なく引き立てる空間にしたかったんです」。きっかけは20年ほど前。バイイングトリップで訪れた、オランダとパリの印象が忘れられなかったから。「ヨーロッパって100年ぐらいたった建物でも、中はきれいにリノベーションされていて。年月を経ることで資産価値が上がるんです」。築100年を超える歴史的なアパルトマンに住むことは、ヨーロッパではステータスのひとつ。日本のように「古さ=マイナス」になりません。「細部までこだわりぬいた自分の城をつくりたい」。そんな思いに駆られたときに浮かんだのが、リノベーションという選択肢だったのです。
いくつかの内覧候補があるなか、Iさんのお眼鏡にかなったのが52㎡の3DKの一室。各部屋が用途ごとに区切られていたため、窮屈な感じでしたが1人暮らしなら十分。眺望もいいし、日当たりもいい。1軒目の内覧で決めちゃいました」。仕切りを取っ払い、ワンフロアで開放的な空間に。そんな確かな理想を携えて依頼したのがムラヤマでした。「義理の弟がカメラマンをしていて。スタジオのリノベーションを担当したのがムラヤマさんで。以前の姿を知っていたからこそ、“あの倉庫がこんなに変わるなんて!”と驚きました。それはもう、原型をとどめてないくらいの変貌ぶりで。ここだったら!」と。さらに「完成イメージを共有するなかで、自分と近いものがあって安心してお願いできました」と続けます。
生活を区切りたくないから、寝室やリビングの仕切りがないほうがいい。そんな理由で縦長のワンルームを家具や観葉植物でゾーニング。空間同士がグラデーションのように、ゆるやかにつながっています。「つくりこんでしまうと、あとから変更するのが難しくなってくるので」。空間の役割を固定させないのがIさんならではのセオリー。動線も自由に変えられます。仕切りをなくして1つの大きなハコにする以外、解体は最小限に。設備はアップデートしたものの、バスルームやキッチンなど水回りの位置は変えず。コストを抑えつつ、理想を叶えるために知恵を絞った作戦です。「あとは玄関からつながる廊下の幅を30cm広げました。ほんの少しの差かもしれませんが、圧迫感が解消されたことで単なる通路以上の空間に。ここにお気に入りのアートを1つ飾っています」。
こうした目に見えるリノベーションだけにとどまらず、暮らしの質を向上させる温熱環境にも配慮。外気に面する内側の壁に断熱材を入れて二重窓に。「おかげで結露知らず。冬もぽかぽかで、以前使っていた電気毛布も必要なし。日当たりがいいおかげか、観葉植物がぐんぐん育ちます。それが楽しくて、少しずつ数も増えてきました」。窓を通して届く淡い光が、時折、ものを引き立てるスポットライトにもなる。そんな日常のささやかな瞬間を、見逃さずいつくしんでいます。
自分にとって何が大切でいとおしいのか。リノベーションをする中で、その感覚がクリアになっていったと教えてくれたIさん。そのひとつが色です。「この部屋は赤をメインカラーにマットな黒、ベージュでまとめて。各所に繰り返すことで統一感と奥行きが生まれます。あとはゴールドがポイントでしょうか。建具の取っ手、ミラーの縁取り、ソファの脚などちょっとしたところにゴールドが効いています」。質感や時代はさまざまでも、色でリズムをそろえれば要素が増えてもうるさく感じません。さらに空間デザインのキーになるのが照明。たとえば、熟成されたワインのように深みのある色が印象的なダイニングには、楽器のシンバルをアップサイクルした照明を。やはりここも赤×ゴールド。場所ごとに明るさや素材を変えながら、時間や過ごし方によって明かりを調整しています。
シンプルさと遊びが同居したようなリズムのある空間。作り付けの収納が少ないこの部屋で、生活道具はどこに収めているのでしょうか。ムラヤマの担当者に「設計する側からすると、こんなに収納少なくて大丈夫?とちょっとドキドキしました」と言わしめるほどの少なさです。「玄関の横に寝室とつながる1.5畳分くらいの小さなスペースがあります。ここに収まる分だけを。ミニマリストとまではいかないけれど、本当に必要なものだけに絞りました」。どのように持つか、そのルールを自分の中で基準を設けること。その一方で、どんなに整理をしてもずっとそばに置き続けたいものもあります。自分の手元に残した愛着のあるものを美しく配置し、それを愛でる。ものとの付き合い方を熟知しているからこそ、もたらされる居心地のよさ。その仕上げとなるのが香りです。取材でおじゃました日も、お気に入りのお香を立ててくれました。夜を招き入れる準備をするための少し重めの香り、気持ちを切り替えるさわやかな香り、心を穏やかにととのえる香り。時間帯やシーン、気分によって変えているそうです。
「仕事がフルリモートなので、1日のほとんどを家で過ごしています。だからこそ、色を統一したり香りでととのえてノイズを排除。ニュートラルな状態が自分には心地いいんです」。この部屋で暮らすようになってから、新しい習慣も増えました。それが日が沈む前から晩酌すること。「以前から料理は好きでしたがキッチンが広くなったので。かんたんなものをぱぱっとつくり、クラフトビールやワインを。あまり強くはありませんが、ゆるゆると飲んでいる時間が楽しいんです」。さらに「出かけるよりも家にいる方が快適。ここに帰ることを思うと、出かけるのが楽しみになる」とも。部屋や暮らしは誰かに見せるものじゃありません。自分がどうしようもなく好きで、目に心地いいものだけがあればいい。少しずつ積み重なっていく生活を大事にするIさんとこの部屋が、大切なことを教えてくれました。




















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